― 片道5万円の一人旅#14―
世界遺産に酔いしれた日
遺跡巡りのスタート地点はモナスティラキ広場。多くの観光客が集まるエリアで、土産物屋が並んでいる。こういう場所を歩くと毎回感心するのが、店員がぱっと見で国籍を判断してその国の言葉で話しかけてくることだ。途中の土産物屋では流ちょうな日本語で話しかけられ、少し心が揺れたが、何も買わずに遺跡方面へ進んでいった。
最初にいくつかの遺跡を見て回ったが、「感動したか」と聞かれれば、正直そこまででもない。
理由は単純で、その先にある大物を見てしまったからだ。前座の記憶は、どうしても薄れてしまう。

ひと通り周辺を巡ったあと、最後の目的地へ向かう。
アテネでいちばん有名な遺跡、パルテノン神殿。
アクロポリスの丘へ近づくにつれて、自然と気分が高まる。言わずもがな世界遺産だ。丘に登る前、受付で入場料を確認する。
「20ユーロか…」
思っていたより高い。少し悩んだが、この遺跡は外せないと判断して料金を払おうとすると、係員がひと言。
「今日は入場無料ですよ」
なんと。偶然にもその日は文化の日のような日で、外国人も無料だという。思いがけない幸運に心が弾む。
とはいえ、人気スポットだけに入場は時間制。次の組の列ができ始めると、その長さは先頭が見えないほどだった。
並んでいると、現地の人たちの身長の高さに驚かされる。前にいる大学生グループは全員180cmクラス。日本では普通の身長の私でも、ここではけっこう小さく見えてしまう。ちょっと自信を失いながらもゲートを抜け、丘を登っていく。
中腹では遠くの町並みが見渡せる場所があり、「ここを登り切れば絶景だろうな」と期待が膨らむ。頂上に着くと、視界に巨大な神殿が現れる。古代の建造物がそのまま残っているような外観は一見無機質だが、近づくと柱や彫刻の細部まで精巧に作られているのが分かる。
この日は曇りがちで、ちょうど日が傾き始める時間帯。淡い光に照らされた神殿は、かえって威厳と神秘性を増して見えた。カッパドキアで受けた感動とは種類が違うが、それでも胸を打つものがあった。世界遺産の迫力を噛みしめつつ、時間いっぱいまで眺め続けた。


アテネの暗部
広場まで戻ると、すっかり日が暮れていた。帰り道、暗い路地を通りかかると、座り込む人たちの姿が目に入る。最初は「体調が悪いのかな」と思ったが、よく見ると地面に無数の注射器が転がっている。
ああ、やはり「アレ」か。
そこから先は衝撃的な光景が続く。自ら皮膚を剝がしている人、ゾンビのようにふらふら歩く人。最初に感じていた違和感は、決して気のせいではなかった。さすがにこれ以上うろつきたくないので、帰りは行きに通ったインド人街でインド料理をテイクアウトすることにした。
ホテルの近くにも同様の人々が多く歩いていて、「この付近にこんなに安い宿があるのも納得だな」と、遅まきながら合点がいく。やはり安宿にはそれなりの理由がある。
部屋に戻り、買ってきた料理を広げる。牛肉の煮込みと、ナンのようなパン。スプーンは付いていなかったので、手でつかんで豪快に食べることにした。肉はゴロゴロ入っていて柔らかく、旨味はしっかりある。だが――めちゃくちゃ辛い。 この季節、この気候では炭酸飲料で流し込むのがいちばん合っている。そう自分に言い聞かせながら、夢中で完食。
そのまま疲れに任せてベッドへ。早めに眠りについた。この後起こることも知らずに…


コメント